【2026年4月】中東情勢の悪化で医療物資が届かない ― 医療機関のBCP対策と産業保健

2026年4月17日、英フィナンシャル・タイムズ紙は「Japanese doctors warn Iran war threatens medical supplies(日本の医師らがイラン戦争による医療物資不足を警告)」と題した記事を掲載しました。米国・イスラエルによるイラン攻撃の影響でホルムズ海峡がほぼ封鎖状態となり、中東からのナフサ(石油化学原料)供給が途絶えつつあることで、医療用グローブ・注射器・点滴チューブ・透析用チューブなど石油化学製品由来の医療消耗品が日本国内での品薄に直面しつつあります。

この問題は単なる「物流の話」ではありません。医療機関で働く医師・看護師・コメディカルスタッフの安全衛生、さらには医療機関そのものの事業継続に直結する、まさに産業保健上の重大リスクです。

政府の対応 ― パンデミック備蓄の放出

政府はパンデミック用に備蓄していた約5億枚の医療用グローブのうち、約5,000万枚(約1割)を5月から放出する方針を発表しました。また、医療製品を生産する東南アジア諸国への原油供給を支援するために100億ドル規模の援助パッケージも公表しています。一方、直ちに供給不足が生じているわけではないとしつつも、今後の状況は不透明であると述べています。

価格高騰と医療機関経営の危機

日本では、保険診療が非課税であるため、医療機関は消耗品の仕入れコストや消費税を診療報酬に転嫁できない構造があります。医療消耗品の流通が減り価格が上がった場合、インフレや賃上げの影響もある中、患者を診れば診るほど消耗品コストがかさみ、赤字が拡大する医療機関も出ています。こうした状況下でのさらなるコスト増は、多くの病院の経営を一層圧迫しかねません。

産業保健の視点 ― 医療従事者の安全と健康をどう守るか

この事態を物資の問題だけで終わらせてはなりません。医療機関の産業保健に携わる立場から、以下の3つの視点を提起します。

1. 医療従事者の感染リスク増大 ― 手袋不足が意味すること

医療用手袋の不足は、医療従事者の業務上の感染リスクに直結します。血液・体液への曝露、針刺し事故時の二次汚染防止、感染性廃棄物の処理など、医療用手袋は医療従事者の安全を守る最も基本的な個人防護具(PPE)です。グローブ不足が深刻化すれば、再利用や長時間使用による感染防護の質の低下、やむを得ない素手での処置による血液媒介感染(HBV・HCV・HIV等)のリスク上昇、皮膚障害(接触皮膚炎)の増加、そしてそれに伴う心理的ストレスの増大が懸念されます。
産業医として、このような局面では職業感染リスクのアセスメントの実施と、限られた物資の中での安全な業務手順の再策定を検討する必要があります。

2. 医療機関のBCP(事業継続計画)と産業保健

今回の供給危機は、地震や感染症パンデミックだけでなく、地政学リスクが医療機関の経営リスクとなる可能性を示しています。

医療機関のBCPには、従来は自然災害や感染症への対応が中心に据えられてきましたが、今後はサプライチェーン途絶などのリスクも組み込む必要があります。そして、BCPの実効性を確保するうえで、産業保健は欠かせない機能です。物資不足時の優先業務の選定(トリアージ)に伴うスタッフの業務負荷の変化、健康障害、メンタルヘルスケア ― これらはすべて衛生管理者・保健師・産業医の関与が望ましい領域です。

3. 医療経営悪化がもたらす「医療従事者の労働環境悪化」

消耗品コストの高騰を診療報酬に転嫁できない構造の中で、病院経営はさらに圧迫されます。経営難を理由に一人ひとりの医療従事者に過重な負荷がかかる状況が続けば、メンタル不調や離職の増加が懸念されます。この点からも産業保健体制の整備は経営リスクの低減策として位置づけられます。

医療機関がいま確認すべきこと ― 産業保健チェックリスト

当社では、今回の事態を受けて、医療機関の皆様に以下の項目の確認を推奨しています。
・PPE(個人防護具)の在庫状況と使用期限確認
・物資不足時の業務手順の見直し。医療手袋・注射器等が制限される場合に、どの処置を優先し、どの処置を延期するのか。その判断基準を衛生委員会など事前に議論しておきましょう。
・スタッフの感染リスク評価の実施。物資制限下で業務を継続する場合の追加リスクを洗い出し、代替策(例:手指衛生の強化、接触を減らす処置手順の見直し等)をご検討ください。
・スタッフのメンタルヘルスケア体制の確立。物資不足による不安、患者対応の困難さ、経営不安などが重なり、バーンアウトのリスクが高まります。メンタルヘルス相談窓口やストレスチェックの活用状況を見直しましょう。

当社は医療機関に特化した産業保健支援を行っております

当社には、総合病院や医療法人クリニックの産業保健経験がある医師が在籍しております。産業医選任から衛生委員会の運営、長時間労働者への面接指導、メンタルヘルス対策、BCP策定支援まで、医療従事者の安全と健康を守るための実効性ある産業保健体制の構築をお手伝いしております。

また、このたび『医療機関用 産業保健マニュアル』を作成いたしました。医療機関が取り組むべき産業保健の要点を、法令対応からリスクアセスメント、メンタルヘルス対策まで体系的にまとめた実務ガイドです。ダイジェスト版を無料で公開しておりますので、お問い合わせフォームよりお気軽にお申し込みください。

「病院で産業保健体制を見直したい」「医師の働き方改革への対応が追いつかない」「物資不足への備えを相談したい」 ― そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

まとめ

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病院・クリニック・医療法人等で、産業医選任、長時間労働者面接、健康管理体制の見直しをご検討中の担当者様は、ぜひ当院までご相談ください。産業保健体制の構築をお手伝いいたします。


出典・参考資料
厚生労働省 報道発表資料 2026年4月
Japanese doctors warn Iran war threatens medical supplies(Financial Times, 2026年4月17日)
追加情報
医療用手袋、欠品で中小医院に届かず 政府は5000万枚備蓄5月放出(日本経済新聞, 2026年4月25日)

※画像はAIで作成したもので写真ではありません