【2026年4月施行】高年齢労働者の労働災害防止が努力義務に
2026年4月1日、改正労働安全衛生法が施行され、高年齢労働者の労働災害防止に関する措置が事業者の努力義務となりました。同時に厚生労働省は「高年齢者の労働災害防止のための指針」(通称:エイジフレンドリー指針)を公示しています。
本記事では、改正の概要、背景にあるデータ、現場での具体的な対応策、産業医・精神科医の視点からお伝えいたします。
1. 法改正の概要
改正の要点
✅ 改正法:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)
✅ 施行日:2026年(令和8年)4月1日
✅ 対象:60歳以上の高年齢労働者を雇用する全事業者
✅ 内容:心身の状況に応じた労働災害防止措置の努力義務化
✅ 指針:「高年齢者の労働災害防止のための指針」が2026年2月10日に公示
2. なぜ今、義務化されたのか ── 背景データ
法改正の背景には、深刻な労働災害の現状があります。
60歳以上の労働災害が増加
・60歳以上の雇用者数:過去10年で約1.5倍に増加
・労働災害による死傷者のうち、60歳以上が占める割合 → 2018年時点で 約26% → 増加傾向で推移
高年齢労働者特有のリスク
加齢に伴う以下の身体機能変化が、労働災害リスクを高めます:
✅ 平衡感覚の低下 → 転倒事故の増加
✅ 視力・聴力の低下 → 危険察知の遅れ
✅ 筋力・持久力の低下 → 過重負荷時の事故
✅ 反射神経の低下 → 緊急時対応の遅れ
✅ 回復力の低下 → 軽微な災害でも重症化
特に転倒・墜落・はさまれ・巻き込まれといった災害類型での、60歳以上の被災率の高さが目立ちます。
3. 「高年齢者の労働災害防止のための指針」の3本柱
新指針では、事業者が講ずるよう努めるべき措置が3つの柱で整理されています。
第1の柱:安全衛生管理体制の確立
① 経営トップによる方針表明→ 高年齢労働者の安全衛生に関する明確な経営方針を文書化→ 全従業員に周知
② 担当者・組織の指定→ 高年齢労働者対策の責任者・推進組織を明確化→ 部署横断的な体制構築
③ 労働者の意見聴取→ 当事者である高年齢労働者の声を吸い上げる仕組み→ 安全衛生委員会等での議題化
④ リスクアセスメント→ 職場の危険性・有害性の評価→ 高年齢労働者特有のリスク要因の洗い出し
第2の柱:職場環境の改善(ハード面・ソフト面)
ハード面(物理的環境)の改善
✅ 照度の確保・改善(視力低下への配慮)✅ 段差の解消・手すり設置(転倒防止)✅ 床面の滑り止め・整理整頓✅ 通路の幅・配置の見直し✅ 階段の安全性向上✅ 操作機器の見やすさ・触りやすさ✅ 高所作業の自動化・省力化✅ 重量物取扱いの機械化
ソフト面(作業管理)の改善
✅ 作業時間の調整(短時間休憩の挿入)✅ 作業内容の見直し - 敏捷性が必要な作業の配置転換 - 持久力が必要な作業の負荷軽減 - 筋力が必要な作業の機械化✅ 危険作業からの除外✅ 個人差への配慮(年齢一律ではない)✅ 暑熱・寒冷環境への配慮✅ 夜勤・交代制勤務の調整
第3の柱:健康・体力状況の把握と対応
✅ 定期健康診断の活用✅ 体力チェック(任意)の実施✅ 個別の健康相談機会の提供✅ メンタルヘルス対策の充実✅ 産業医・保健師との連携強化✅ 必要に応じた作業転換の検討✅ 復職時の段階的な業務復帰
4. 現場での具体的対応策 ── 5つのステップ
中小企業の経営者・人事ご担当者様向けに、実務的な対応ステップを提示します。
Step 1:現状把握(1〜2か月)
[実施事項]□ 60歳以上の従業員リスト作成□ 各人の業務内容・職場環境を把握□ 過去の労働災害履歴を確認□ 既存の安全衛生規程の見直し点を洗い出し
Step 2:リスクアセスメント(1か月)
[実施事項]□ 高年齢労働者特有のリスク要因を職場ごとに評価□ 危険箇所のマッピング(転倒リスク、視認性等)□ 優先順位の決定(緊急度・重要度マトリクス)
Step 3:対策の実施(継続)
[ハード対策]□ 照明の改善□ 手すり・滑り止めの設置□ 通路・階段の整備□ 機械の操作性改善[ソフト対策]□ 安全衛生規程に「高年齢者配慮」項目を追加□ 作業手順書の見直し□ 始業前体操の導入□ 適正配置の見直し
Step 4:健康管理の強化(継続)
□ 産業医面談の機会増加(年1回 → 必要時)□ ストレスチェック後の高ストレス者フォロー強化□ 「気軽に相談できる窓口」の設置□ 体力測定の任意実施
Step 5:継続的改善(PDCA)
□ 半年〜1年ごとの効果検証□ ヒヤリハット事例の収集と共有□ 安全衛生委員会での議題化□ 規程・手順書の継続的アップデート
5. 中小企業向けの補助金活用
高年齢労働者の安全衛生対策には、エイジフレンドリー補助金が活用できます。
エイジフレンドリー補助金(2026年度)
・対象:60歳以上の高年齢労働者を常時雇用する中小企業
・補助対象:ハード対策(設備改善)、ソフト対策(健康管理等)・補助率:1/2〜1/3
・上限額:100万円〜250万円程度(年度により異なる)
[活用例]・転倒防止のための床改修・手すり設置・照明設備の改善・健康管理機器の導入・産業保健サービスの導入
→ 詳細は、独立行政法人労働者健康安全機構 または 厚生労働省のサイトをご確認ください。
6. 銀座東産業保健事務所のサービスとの関係
当事務所では、本改正に対応するため、以下のサービスをご提供しています(または今後展開予定です)。
✅ 産業医業務:高年齢労働者の健康管理面談
✅ 精神科顧問:加齢に伴うメンタルヘルス課題への対応
✅ ストレスチェック- 高ストレス者の早期発見- 高年齢労働者の心理的負荷の把握
✅ エイジフレンドリー職場診断サービス- 職場のリスクアセスメント支援- 改善提案レポート作成 - 産業医視点でのアドバイス
「自社の対応状況を整理したい」「専門家の意見が聞きたい」という場合はお気軽にお問い合わせください。
早期対応のメリット
✅ 法的リスクの低減✅ 労災発生率の低下✅ 高年齢労働者の活躍支援✅ 採用力・定着率の向上✅ 補助金活用による初期投資の軽減✅ 「働きやすい職場」としてのブランディング
少子高齢化が進む日本において、高年齢労働者の活躍は経営課題そのものです。指針への対応は、コンプライアンスを超えた「人材戦略」として捉えていただければと思います。

高年齢労働者に安全・健康に働いていただきたい企業の方は、お気軽にお問い合わせください。
出典・参考資料
- 厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」
- 厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」
- 厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン(2020年3月公表版)」(PDF)
- 厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」

