イタリア駐在員のメンタルヘルス:知っておきたい制度

イタリアのメンタルヘルス医療の現状

イタリアの精神科医は人口10万人あたり約6〜10人とされ、同水準の諸外国と比較して多いとは言えません。

加えて、医療費全体に占めるメンタルヘルス予算の割合は約3.3%(2022年)と、WHO欧州地域の中央値である4.5%を下回っており、構造的な資源不足が指摘されています。その影響もあり、公立の精神科・心理士サービスは、医療水準の高いミラノでも数ヶ月待ちになるケースが報告されています。

こうした課題を受け、イタリア政府は「国家メンタルヘルス計画2025〜2030(PANSM)」を策定し、資金不足の解消、地域間格差の縮小、地域に根ざした支援体制の再構築を目指しています。2026年度予算では、初期診断・治療・支援の強化に向けて段階的に予算が配分されることになっています。

出典:WHO Mental Health Atlas 2024、WHO欧州地域 健康システムオブザバトリー「Italy: National Mental Health Plan 2025–2030」

「Bonus Psicologo(心理士補助金)」制度

イタリアには、2022年に導入され、2023年予算法で恒久的な制度となった Bonus Psicologo(ボーナス・プシコローゴ) という補助制度があります。これは民間の心理士・心理療法士によるセッション費用を補助するもので、補助額は所得指標(ISEE)に応じて最大1,500ユーロです(1セッションあたりの上限は50ユーロ)。

2025年の申請期間は 9月15日〜11月14日 でした。

ISEE(所得指標)補助上限額
15,000ユーロ未満最大1,500ユーロ
15,000〜30,000ユーロ最大1,000ユーロ
30,000〜50,000ユーロ最大500ユーロ

出典:INPS(イタリア国立社会保険公社)公式サイト、イタリア保健省

在留邦人は利用できる?

利用には、イタリアへの住民登録(iscrizione anagrafica)とISEEの取得が必要です。ISEEも住民登録を前提に算出されるため、実質的には民登録の有無が利用可否を左右する要件となります。

住民登録の状況は赴任形態によって異なるため、ご自身が対象となるかは、INPS(イタリア国立社会保険公社)に直接確認することをおすすめします。

イタリア駐在員が抱えやすいメンタルヘルスのリスク

1. 日本との時差(7〜8時間)

イタリアと日本の時差は、夏時間期間中が7時間、冬時間期間中が8時間です。チリや南米と比べれば小さいものの、本社の終業時刻がイタリアの午前中に重なるため、会議や連絡対応が現地の業務開始前に集中しやすい構造があります。

2. イタリア語の壁

イタリアの公的医療機関は、基本的にイタリア語のみの対応です。英語が通じる場面は限られており、精神科・心理士との細やかな対話が不可欠なメンタルヘルスの領域では、言語の壁が特に大きな障壁となります。

3. 南北・本土と島嶼部の医療格差

ミラノをはじめとする北部と、南部・島嶼部とでは、精神科医療の水準に格差があります。シチリアやサルデーニャなどの島嶼部に赴任している場合、十分な専門医療を受けるには本土の都市部(ナポリなど)まで移動せざるを得ないこともあり、現地で適切な医療にアクセスするハードルは一層高くなります。

4. 公的サービスの長い待機時間

前述のとおり、イタリアの公立メンタルヘルスサービスは、医療水準の高いミラノでも数ヶ月待ちになるケースが報告されています。急性期の不調に対して、現地の公的機関が迅速に対応できない可能性があります。

現地で頼れる情報源

外務省「世界の医療事情(イタリア)」
現地医療機関や受診時の注意点についての情報が掲載されています。
→ 外務省「世界の医療事情(イタリア)」

在イタリア日本国大使館
→ 在イタリア日本国大使館

会社・人事担当者の方へ

イタリアには心理士補助金(Bonus Psicologo)という制度がありますが、住民登録が前提となるため、日本企業からの派遣駐在員では利用できないケースがあります。さらに、公立サービスは数ヶ月待ちが報告されており、言語対応も限られています。

そのため、現地の公的制度だけに頼るのではなく、日本語で相談できるオンラインのメンタルヘルス支援や、本社側での産業保健体制の整備をあらかじめ準備しておくことが、駐在員の安心につながります。


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参考・引用元

在イタリア日本国大使館

WHO Mental Health Atlas 2024: Europe's Data & Italy ― Adanzi Therapy

Bonus Psicologo ― INPS(イタリア国立社会保険公社)

外務省:世界の医療事情(イタリア)




※本記事の制度情報は執筆時点のものです。最新の内容は各ホームページでご確認ください。